「逆さに吊るされた男」 田口ランディ 著

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1995年3月20日、朝のワイドショーでは

これまでに例をみない事件が起こったと

大騒ぎだった。

 

私はこの日、午後から築地駅へ仕事に

行く予定だったので、どんな状況か

気になり、テレビをじっと見ていた。

 

そして、以前亀戸で異臭騒ぎが

あったことを思い出し、

なんとなくオウム真理教が

関係している気がしていた。

 

お昼前に築地駅に着くと、思ったよりも

落ち着きを取り戻していたので、ほっと

した。

 

職場へ行くと、同僚が、他の部署の人が

毒ガスが撒かれた車両に乗っていたので、

病院へ行ったらしいと私に教えてくれた。

そしてその同僚も1本電車が早かったら、

自分も危なかったと言っていた。

 

これが、あの有名な「地下鉄サリン事件」。

 

今回紹介する本

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「逆さに吊るされた男」は、

この事件の実行犯の一人、死刑囚のY氏と

女性作家(田口ランディさん)との交流を

を描いたノンフィクション小説。

 

 

この事件が起こった後、テレビの

ワイドショーは、昨年のコロナ以上に

オウム真理教の話題で持ち切りだった。

今のようなSNSなんてなかったから、

私はワイドショーから提供される

事件に関与した信者達のイメージを

完全に刷り込まれていたようだ。

 

テレビでは、「殺人マシーン」と呼ばれ

恐れられていたけど、この本に登場する

Yは、とても冷静で穏やかな人物。

 

被害者にとっては、悪人ではあるけど、

あ〜どうか無期懲役にしてあげて欲し

いと思えるほどだった。

 

それにしてもこれから死刑になる人と

交流を持とうと思えるランディ

さんはすごい。

 

死は死刑囚だけじゃなく、平等

に訪れるわけだけど、その世界を

直視することは、自分の死を

目の前に突きつけられている

ようなもの。

今の私にはその現実を受け入れる

準備がなかなかできない。

 

 

本の最後の方で、ランディさんが

これでもかというほど自分の

気持ちを正直にYさんへ

書き綴っていて、自分と真剣に

向き合っていて、凄みを感じた。

 

 

 

この本には松本サリン事件の被害者

河野義行さんを取材しているのだけど、

この方の懐の深さが半端ない。

 

脱会した元信者と交流があったり、

冤罪撲滅のための行動をされて

いたりと、本当に菩薩さまのよう。

 

 

p27

人間と言うものは弱いものなのよ。

組織に入れば組織に従ってしまう。

何か思い込めばそれを正義だと思う。

そういうものなのよ。

 

誰でも間違いを犯すと言うことですか?

そうよ。だれでも。間違いを犯すのが人間。

あなたも、私も。ね?

 

 

 

Yを無期懲役にして欲しかったと

言っておきながら、もし自分の家族が

被害にあっていたら?河野さんと

同じような気持ちになれるだろうか。

 

 

今回、この本がきっかけで事件に

関与した信者の手記やWikipediaを

読んだ。

 

みんな若くて優秀な人ばかり。

 

普通の人より正義感も強く

真面目だったのになんの因果か、

誰も止めることなく、事件へと

突き進んでしまった。

 

 

本当に読んでいて切なかった。

 

 

のめり込むことは悪いことでは

ないけど、常に疑う気持ちは、

隠し持っておいた方がいいと

思った。