「重力ピエロ」伊坂幸太郎 著
前回に続き、伊坂幸太郎さんの
「重力ピエロ」です。
この本をチョイスした理由は、
前回同様、伊坂幸太郎作品の
ランキング2位だったから。
この本は、放火、遺伝子、
グラフィティアートといった
題材と、ミステリーが相まった
心温まる家族の話。
「逆ソクラテス」と比べて、
少し分厚い気がして、
読めるか心配しましたが
とても面白い内容だったので、
全く問題ありませんでした。
強姦されなければ、
この世に生を受けなかった「春」。
衝撃的なスタートだった。
登場人物
主人公 泉水
主人公の弟 春
父親と母親
泉水と春の母親は、とても
美しかった。
ところが、泉水を産んだ後、
突然、高校生に強姦されて
しまう。そして、母親のお腹には
その子供が宿っていた。
町では、レイプされたことは
知れ渡っていたが、父親は、
中絶する選択をせず、次男として
育てていく決意をする。
春が小学生の時、彼の描いた絵が
コンクールで大賞に選ばれる。
飾られた絵を家族で見に行くと、
春の才能をやっかんだ審査員の女性が
出生の秘密を仄めかすような言葉を吐く。
自分の秘密を知ってか知らずか
春がその女性に遺伝的中傷を
返し、自分の絵で、女性の尻を
叩く場面は、正直、よくやった!!
と思った。
そこに母親登場。
私は、自分の息子は悪くないと
知りながらもその場を取り繕う
ために、「申し訳ございません」
と、謝るかと思いきや!!!
建前や世間体を気にする
大人には、到底できない行為を
とった。
なんて正直で、素敵な母親だろう。
そして、春の母親が
この人でよかったと思った。
父親も最後には亡くなって
しまうけど、春のしたことを
咎めることもせず、見守る姿には、
本当に感動した。
そのお父さんの言葉
P50
人生というのは川みたいな
ものだから、何をやってようと
流されていくんだ。
と言ったこともあった。
「安定とか不安定なんていうのは、
大きな川の流れの中ではさ、
些細なことなんだよ。
向かっていく方向に
大差はない。好きにすればいい。」
大きな川の流れに身を任せる方が、
本当は生きやすいはずなのに、
私たちは、流されることの方が怖い。
だから、大きな石や中洲(会社や肩書き)に
しがみつき、必死で安定を掴み取ろうと
してしまうんだろう。
社員と会社の関係について、
遺伝子や細胞を例えて説明され
ていて、とてもわかりやすかったが、
春の強姦魔の設計図を身体に
巻きつけている
という表現が、
たまらなく切なかった。
この物語は、放火事件の犯人探しも
同時に進行していくのだけど、
グラスホッパーの時のような
びっくりな結末というより、
そうだよね。
そうだと思ったよ。
という気持ちになった。
そして、兄、泉水の優しさに
胸が打たれた。
それから、この本の中に登場する
「カラマーゾフの兄弟」という
本の漫画版を読んで、善と悪に
ついて考えてみようと思いました。